「かびくんはさ、人生の目標とかあるの?」
突然の上司の問いかけに僕は戸惑った。定時を過ぎて職場には僕ら二人きり、適当に流すこともできない。何か言わなければいけない。
「人生の目標ですか」
僕は耳に入った言葉を反芻して、少し間を置いた。
「……人生の目標とは違いますけど『月曜日が楽しみに思える』ようになりたいとは思ってます」
困ったときの定型句だ。仕事での目標とかなりたい姿を聞かれたらこれを答えるようにしている。実際僕の気持ちにも近いし、上司にもウケた。
人生の目標か ―――
それから少し考えた。抽象的に言えば幸福追求とか自己実現、憧れの理想像の類だろうか。しかし僕のなりたい姿としては「満たされないまま何かを求め続けること」が当てはまるかもしれない。
そんなことを思いながら白い息を深く吐いて、帰路についた。